書きかけの冒頭

告白は31のキザハシで

没ったHJ文庫大賞向け企画のタイトルです。

なんかタイトルに数字入れる縛りしてたのですよね。この頃。

そしてプロローグは書いてたので以下掲載します。この話のプロットを短く変更し、今回の応募に間に合わせる算段です。

プロローグ【タクザンカンの歌姫】

 少女の素足が冷たい階段のへりをとらえた。
 つるつるしたリノリウムを避け、ゴムの滑り止めを求め、つかの間さまよったあげく、白く華奢な右のつま先がおそるおそる目的地に触れる。
 裸足の親指と人差し指にぎゅっとはさまれた灰色の滑り止めは、ほんのり淡い紅色の影を宿し、じわじわと熱を上げていく。この調子なら濃紺の制服に包まれた小柄の少女を支えるくらいの仕事はじゅうぶんするであろう。
 地風升ちふうしょう学園中等部の芸術棟から南の真鶴塔まなづるとうへ至る第三十一区画の、この上履き厳禁な下り階段は、特にきつい段差とはいえない程度のものなのに、彼女の表情ときたらきわめて真剣このうえない。
 きめ細やかな肌に薄墨のように細く引かれた眉毛は逆ハの字を描き、そのわずか下にバランスよく配置されたつぶらな瞳は階段のただ一点だけを見つめている。
 第三十一区画の最初の階段は緩やかに右に大きくカーブを描いたあと、小さくつづら折れて段差が急になっていく。少女が居るのはその一段目で、少女が見ているのはその一段目の自分の足がかかった滑り止めだ。くだりの方向に正対せず、半身の姿勢で降ろした右足とその周辺しか見ていない。
 裸足の少女はだんだんと自重をかけていく。
 重力のおかげでウェーブのかかった長い黒髪がぱらりとほおに垂れる。
 わずらわしくはないのだろうか。普段なら十二歳の少女をかわいらしく引き立てるつややかな黒髪も、いまは邪魔な存在にしかならないであろうに。
 はた目からはそうも思える状況でさえ少女はまったく気にせず、見かけ同様あまり自己主張しないつつましやかな胸に手をあて深呼吸を何回かした。つむじ風を意匠にデザインされた校章の刺繍が上下し彼女に新鮮な空気と落ち着きを与えていく。
 踏み込んだ右足から伝わる感触から、少女は重心が移動したことを理解する。

「えいっ」
 かけ声とともに左足が一段下の踏み板へと移された。

 ――だいじょうぶ。滑ってない。転んでないもん。立ってるよ
 ふうとの安堵のため息が一瞬漏れるが、少女は緊張の糸をほどかない。ようやく一段降りたばかりなのだ。まだまだ階段は長く続いている。彼女の挑戦はいまだその目的を達成した訳ではないのだから、安心するにはいささか早いし、これくらいで喜んでいてはいけないだろう。
 少女が今回同様右足主導で一段降りるのか、左足を交差させて左足主導で行くのかをためらい、赤黒アーガイルのスカート越しに白い足をぼんやり見つめていたときだった。誰も居ないはずの第三十一区画に人の気配を感じたのは。放課後になれば真鶴塔へ移動する生徒は居ないはずだったのにと思いが少女の頭をよぎる。
 慌てて辺りを見回したつぶらな瞳はやがてひとりの男子生徒を発見した。濃紺のブレザーは本校生徒であることを示していたし、青いネクタイなのだから少女と同じく入学したての一年生に違いない。
 彼は芸術棟側の非常扉に身を隠すようにしてこっちを窺っている。短く切りそろえられた髪とアンダーリムのメガネから真面目そうな印象を受けたが、それ以上は少女の思考が停止してしまった。

                 ◇

 ――いまのところは少女の視線はきざはしに釘づけだ。絶対にこちらに気づいていない。
 彼女の死角から一部始終を眺めていた雨宮あまみや藤丸ふじまるは、先ほどまでそう思っていた。
 端から見るとまるでストーカーの様な行為を自覚はしていたが彼の気持ちは止まらない。なぜならば入学したての中学校をさまよい歩いていたらお気に入りな二次元キャラそっくりのリアルな女の子を見つけてしまったのだから。それはほんとうに無理もない。そう自分に言い聞かせて少女の行動を眺めていた。
 階段を降りている少女は制服とメイド服の違いはあれど、藤丸の眼には彼の所属するSNSのマスコットキャラにしか見えなかった。小柄な身体。長くウェーブのかかった黒髪。ひかえめな胸。すらりとした細い脚。抜けるような白い肌につぶらな瞳。彼女を見た瞬間、彼の脳内に行きつけのwebサイトのBGMがなり出したくらいだ。
 違うのは「おかえりなさいませですわん♪ ちゅんかりばあ様」とにっこりあいさつしてくれないことくらいだが、それはこちらに気づいてないからだろうし、藤丸自身にも二次元と三次元の違いを認識くらいはしているだろう。
 ずれかけていたアンダーリムのメガネをくいっとあげる。曖昧だった焦点が少女の顔にぴたりと合うが、見れば見るほど彼の脳内に記憶されているSNSのマスコットキャラそっくりだ。
 理想の二次元キャラが現実に出現したら中学生男子はどう行動するのか。いろいろなパターンがあげられるだろうが、物陰に隠れてじっと見つめるという選択肢は割と普通に有りだと思う。
「「あ」」
 ほぼ同時だった。互いが互いの存在に気がつき、ふたりは驚きの言葉を発する。
 少年少女はしばらく見つめあっていたが、先に反応したのは藤丸だった。普段はもっと低いのだが、緊張のせいか若干裏返った声で尋ねる。
「キユちゃん?」
 硬直していた少女がぴくんと震えた。瞳が恐怖の色で塗りつぶされている。そして声にならない叫び声をあげるやいなや藤丸に対して拒否反応を示した。
 彼の言葉は耳に入らないし、
 視界にとらえたくないし、
 実際に入ったとしても認識しないし、
 そしてなによりも本能が物理的に距離をとり二者間の間隔を空けたかった。
 
 脱兎のごとく少女が逃げる。

 ウェーブのかかった長い髪をたなびかせて少女が階段を駆け降りていく。いままでのおどおどした態度とは一変し、動作に淀みがない。さきほどは一段降りるのにかなりの時間を要していたが、いまはそれが嘘のように迅速に階段を降りている。ひらめく赤黒アーガイルのスカートのすきまから細く白い脚がこきざみに交差をくりかえす。スピードがぐんぐん乗る。つま先は滑り止めに頼らず正確に踏み板をとらえていった。あれほど不安だった転倒滑落への恐怖はどこのその。少女は藤丸から必死に逃げた。

 藤丸もまた本能が反応した。視界から消え去った少女を追いかける。
 彼は足に自信があるほうではなかったが、ぱっと見で身長差は十五センチはあるのでコンパスも当然その分の差があるだろうし、男女の体力差もある。機動速度の面で明らかにアドバンテージを有しているのだから追いつけると踏んだのかもしれないし、まったくなにも考えてなかったのかは定かではない。とにかく藤丸は階段を全速力で降りる。

 この学園はやたらと階段が多いし、世間一般の常識的な構造のものはほとんどなく、独自に設計された階段が学園内の至る所に設置されている。あまねく普及した知見によれば、合理的にはほど遠いと判断せざるを得ない配置であり、世の人からは機能よりも様式美を追求したのではと奇異な目で見られることが多いくらいである。これは理事長の趣味らしく、地元住民には正式名称よりも『階段中学』の俗称のほうが通りがよい。

 少女が小柄さを最大限に生かした低い重心のコーナリングで最初の角を曲がる。つづら折れも草食動物が身の危険が迫ったときに発揮する俊敏なフットワークでクリアしていく。滑りやすいリノリウムを柔らかい裸足はしっかりグリップする。壁の掲示板に掲げられた各種印刷物をスピード線に変えて、彼女は速度をあげていく。そこに重力の加速が加わるのだからこれは結構な速さになる。身体制御も大変なのだろうが、彼女はたいそうバランスよく右に左にうまくステップしていたので、転倒や滑落する気配すら見せない。
 藤丸は少女にくらべるとスマートとは言いがたかった。歩幅の違いは一段一段降りていく分には有利に働かないので、彼は段を飛ばすことにメリットを見いだす。
 緩やかな右カーブまでは彼のほうが速かったが、つづら折れで離されてしまった。段飛ばしは危険だったので自制したからだ。それでもまだぎりぎり藤丸は視界の隅に少女を見ていた。波打つ黒髪をまとう姿がPCの画面内の彼の好きなキャラと被る。あきらめることも頭をよぎったが見失うまではその選択肢はないと彼はその考えを即座に打ち消した。
 つづら折れが終わると一坪ほどの踊り場があって、左右に扉があり別の棟への分岐点になっている。まっすぐ行けば次は第三十一区画の二つ目の階段へと続く。
 思考停止中の少女はまっすぐ進む。今度は登りだ。
 最初の階段のように廻り踏み板はなく、この階段は目標まで一直線に踏み板を連ねる。ただ普通と違うのはそれが等間隔ではないということだ。短い踏み面が三つ続いたらひとつ長い踏み面がありまた短い踏み面が三つ続くというように最初から最後まで均一にはなっていない。
 少女はリズムよく不揃いな踏み板をそれなりに踏んで登っていったが、藤丸はうまく登れなかった。段飛ばしのタイミングがまったくつかめなかったからだ。これではふたりの差は縮まらない。それどころか離れていく一方だ。
 しかしそのアドバンテージは次の二重らせん階段で吹き飛んでしまう。結局は基礎体力の差だった。運動とは無縁に見える少女は最後まで体力が持たなかったようだ。左回りルートを選択した少女は右回りルートで猛追する藤丸に捕捉される。
 満面な笑顔で藤丸が叫ぶ。
「追いついた」
 彼の手が少女に触れそうになったが、それはかなわなかった。
 薄れゆく意識のなかで少年が知覚できたのは虫の羽のような音と少女のブレザーのポケットから飛びでた赤と青のクラフト紙のカバーがそれぞれかけられた二冊の単行本だった。

まとめ

ここに出てきた階段の描写をもっと細かに情緒的に描くよう努めたいと思います。また今日思いついたのですが、三人称視点で男主人公よりのスタンスをとりつつ、感情はヒロインのものをかなり強く描写するパターンでいきたいです。

とにかく今回は習作。そのつもりで頑張りたいと思います。

2019年9月21日書きかけ

Posted by hokuto