進化と次元と禁忌犯しゃ82・6%賭け 【第五章】天水訟と調停を引き受ける人形(5)

「第三ステージはっじっまっりまーす」
 碧色のカエルの着ぐるみ姿のホストは超ハイテンションだ。
「今回は日本人ならみんな大好き。カラオケだよー。ユウの持ち歌のどれかを歌ってね。点数が5点以上なら勝ち抜けで、それ未満だと脱落。脱落者の最低限も上限も今回はなし。みんなの熱唱期待してまーす」
 ユウの虚像がステージの上をぴょんぴょん飛び回っている。
「カラオケ……だと」
 トウヒは自分の苦手なものが競技として採用されるはずがないと踏んでいたので、これには相当驚いた。当人の歌唱力を熟知しているケイジロウが、心配そうにトウヒの顔をのぞきこむ。トウヒは青ざめた顔でいやあ大丈夫でしょうと虚勢を張った。トバコとカバコは、ふたりのやりとりを見てきゃあきゃあ叫んでいる。
「歌うのはケイジロウくん、トバコちゃん、トウヒくん、カバコちゃんの順番でお願いします。点数についてなんだけど、今回は参加者同士(+ボク)で投票する方式を採用しました。投票するのは紅白に色分けされた珠」
 碧色のカエルがくるりと一回転すると、天井から軟球のテニスボールが十個、バラバラと落ちてきて、ふぞろいに、それぞれ勝手気ままにバウンドし始めた。紅いのが五個、白いのが五個と同数だ。ホスト役が珠と呼んだどう見てもテニスボールなそれは、重力も慣性も無視して停止することなくバウンドし続けている。
「女の子は紅い珠を二個ずつ」
 紅い珠四個がバウンドする角度を変え、トバコとカバコの手元に飛び込んでいった。
「男の子は白い珠を二個ずつ」
 トウヒとケイジロウの手の中に白い珠が握られる。
「中性のボクは紅一個と白一個のどっちかひとつだけ」
 着ぐるみ姿のユウの虚像の両サイドを、紅と白の珠が跳ね続けていた。心なしか先ほどのバウンド間隔よりも短めに弾んでいる。
「歌を聴いて、いいなあと思った人のボックスに入れてね」
 参加者四名の名前がそれぞれに書かれた三十センチメートル四方くらいのクリアケースがステージ中央部、参加者たちの目の前に並んでいる。上部には円形の穴が空けられており、そこから紅い珠、白い珠を入れられるようになっていた。
「珠はケイジロウくん、トバコちゃん、トウヒくん、カバコちゃん、ボク、カバコちゃん、トウヒくん、トバコちゃん、ケイジロウくんの順で入れてね。歌う順番と一緒でリバースするの。あと点数だけど、女の子のとこに入った紅い珠は1点、白い珠は3点。男の子のとこに入った白い珠は1点、紅い珠は3点で計算することとします。合計5点以上の人は勝ち抜けで、それ以外の人は残念ながら脱落してもらいます。ちょっと複雑だけどみんな頑張ってね」
 説明を聞いた後、青ざめていたトウヒの顔が赤くなった。
「それ全然カラオケ関係ないじゃん。両陣営による完全な駆け引きゲームでしょ」
「さっすがトウヒくんはするどいっ。ボクの企画する意図を瞬時に理解してくれてうれしいなあ。ボクたち相性悪いことなんてないよ。きっといいパートナーになれるってば」
「いや、それ無理。絶対に無理。最初のステージも、さっきのステージも、このステージも、考えることがえげつなさすぎだよ。ぼくには到底賛同できないし、ついて行けない」
「つれないなあ」着ぐるみのカエルの目玉にエフェクトがかかり、大粒の涙がこぼれる。「でもボクはツンデレは好物だからそれはそれでいいよ。トウヒくんがツンツンすればするほど、その後のデレが美味しくなるんだもん」
 トウヒは絶句していた。もうこいつとは話をしたくないと顔に書いてある。
「ねえカバコちゃんってばさ。さっぱり理解がついてかないので、あたしの頭でもわかるように、なぜこれが駆け引きゲームになるのか教えて欲しいな」
 自分の頭で考えることを三秒で放棄したトバコが、双子の片割れに訊いた。
「ファーストステップ。ちょっと単純化してみよう」カバコは過去何度もこういう展開に遭遇していたらしく、手慣れた感じで思考すべきポイントを整理していく。「ユウさまはジョーカーだから、それは抜かして参加者四人だけで投票するとしましょう」
「うん」
「みんながみんな自分だけに投票したら何点になるでしょうか? 勝ち抜けられますか?」
「うーんとあたしは紅いの二個持ってて、自分の名前の書かれたクリアボックスにふたつとも入れます」
 トバコが手にした紅い珠を実際に入れようとしたので、カバコは慌てて、まだ競技は始まってないからダメと止めさせた。てへへと笑ったトバコが、女の子のとこの紅い珠は一個1点だから二個なら2点だね、と正解に辿りつく。
「そう2点よ。みんな脱落なの。で、ここでさっきはジョーカーって理由で外していたユウさまを戻して考えてみたらどうなるでしょう?」
「ユウさまは紅い珠か白い珠のどちらか一個を投票できるんだよね。ユウさまはトウヒくんだけを勝ち抜かせたいわけだから……きゃは。紅い珠をトウヒくんのボックスに入れればいい。そうしたらプラス3点でトウヒくんは計5点で勝ち抜けちゃう」
「ぴんぽーん。大正解。みんながみんな自分に投票してしまうと、その時点でこのゲームのユウさまの勝利が決定してしまうわけね」
「なるほど。あたしたちが勝利するためには、トウヒくんかケイジロウくんの白い珠が必要になるんだ」
「逆に向こうにとってもこっちの紅い珠が必要になってくる」カバコは両手の紅い珠をぎゅっと握りしめた。「それがトウヒくんが言ったカラオケが上手いから投票って単純なものではなく、互いに生き残りを賭けた駆け引きになるのね」
「あたしたちの紅い珠を全部向こうに入れて、向こうの白い珠を全部こっちに入れてもらえばみんな6点で勝ち抜けられるし、それでみんな平和じゃないのかな」
「まあ、それは脱落することを考えたら全然ましなんだけど、得てしてこの手のゲームだと、絶対に相手を出し抜いてやろうとか考えるひとが居るのよね。誰とは言わないけど」
 カバコがトウヒを一瞥する。トウヒはケイジロウとの打ち合わせ中で、カバコの視線に気づかない。
「こちらの基本方針は、さっきトバコちゃんが言ったように、全員勝ち抜けを狙う作戦でいいと思う。向こうもそれが一番の安全策なはずだしね」
「あたしたちを脱落させようとして、もしも失敗したら大変だもんね。あたしたちってばある意味気楽だけど、トウヒくんたちトトシャケは島が平面カニでいっぱいでなんとかしたいって必死だもん」
「そういうこと。平面カニがどうなろうと知ったこっちゃない。意中の男性と調停を引き受ける人形を起動させて永遠のパートナーになりたいって夢想してる乙女こそ最強」
 カバコが右手を上げたので、トバコがそれを受けてハイタッチした。
「きゃは。向こうが応じなければ、こっちもそれなりにすればいいんだよね」
「うん。頑張ろうね」