青方偏移の三宝鳥 -strong bond between brother and sisters- 【第六章】蒼い鳥(4)

 せせりは大きく伸びをして、深呼吸した。
「中緯度での研究は大事ですが、それはこの一色光町でなくてもよかった訳ですからね。それを母が指定したのはきっとわたしを真実に触れさせ、後は自分で考えてみろってことなんだと思います。母が決めたことをわたしにも強制しないところとか、説明を一切せずに自力で真実に到達するよう画策するとか、すっごくお母さんらしいです。だったら私もじっくり考えてみることにします」そこでせせりはあっと声を漏らす。「せっかく二年前にこっちに来てたのでしたら、もっと早くに出会いたかったですね。それは少し残念です」
「まあ縁だからね。こういうの」かつるがかごめにありがとうなと礼とねぎらいの言葉をかけてから本題に戻る。「まあ、人類の崇高な目的を目指す進化研究会であっても人権遵守が基本原則だから、いくら遺伝子のためとはいえ、やはり結婚は本人同士の意思を尊重せねばならないとうちの親は考えた。自分たちの子供に結婚の自由を与えようってことだ。ちなみに俺は進化研究会からはかごめとみちるの両方共々コウノトリを呼べ、発生する諸問題はすべて進化研究会が解決するからとにかく早く、可能な限りたくさん呼べって言われてる。まあそれもわかるよな。二百五十年かけて遂に一〇〇%の確率までこぎ着けたんだからここで量産しときたいわな。でも親はそれは無理して聞かなくていいって言ってくれてる。かつるは自分が幸せだなって思う人生を歩んで欲しいからって。一応希望は俺とみちるが夫婦になることで、そのためだったらいつでも別居するとは言ってくれてる。でもそれは強制でないって。まあ、子供の意思を尊重してくれるってことだ」
「ボクにもそう言ってくれてるよ。お兄ちゃんとちゃんと結婚したかったら別居しましょう。ずっとお兄ちゃんの妹でいたかったらこのままでいましょうって。ボクはこのまま、お父さんもお母さんも兄さんもずっと一緒にいられたらいいなってのが本音なんだけどね」
「世間一般の常識に囚われてしまってもいけないわ。あたしらは堂々としたいことを主張していくべきなのよ。そのなかでそれぞれ折り合いをつけていけばいいじゃない。あたしは少なくとも形にはこだわらないわ。別に結婚しなくても同居しなくても、お兄ちゃんの子供さえ授かればいいかな。お母さんみたいにね」
 かごめは夢見る少女のうっとりとした表情を浮かべている。かつるは前置きが非常に長く、脱線しがちだった話の決着を図るべく、まとめに入った。
「まあ、今までした話はこの年だから理解できるのであって、もっと小さい子にはわかる訳ないよなあ。それがうちの親はわかってなかったのか俺たちが七歳のときにこの話が出たんだ。俺とみちるはその当時、兄妹じゃなくなるかもしれないってとこに非常に大きなインパクトを受けてだな。父さんと俺、母さんとみちるの別居生活とかふたり嫌で嫌でさ。だから猛烈に反対したんだよ。一応両親は納得してくれたんでまあ現状維持にしておいてさ。もう少し俺たちが大きくなってから再度話をしようってことになったんだ。けれど俺たちはそれが信頼できなくってな。また兄妹が別れ別れになるんじゃないかって戦々恐々でさ。とにかく信じられる何かにすがりたかったんだ」
「願いが叶うって噂があるものは大抵試したし」みちるがかごめを見つめた。「変な宗教があったとしたならさ。きっとそれに嵌ってたし、ね」
「進化研究会は変な宗教じゃありません」
「母やわたしが研究に没頭したみたいな感じですか?」
「うん。そんな感じ」かつるがせせりの髪の上の曲がっていた銀の円盤を直した。「宗教も研究も無かった当時の俺たちがすがったのは、青方偏移の三宝鳥と白金の凍湖の神秘性だったんだ」
 せせりはじっとかつるを見つめていたが、やがて思いついたようにかつるのネクタイの結び目を直す。そんなに乱れていなかったので、かつるにしてみれば絶対的な必要性はなかったのだが、せせりにとってはきっと必要だったのだろう。満足げなせせりに対して、かつるの口からは素直な礼が出てくる。せせりはお互い様ですと小さく笑った。
「青方偏移の三宝鳥がエネルギー切れして動かなくなるかもしれないって話も怖かったよね」みちるがしみじみ言う。「あれはボクたちにとって魂のよりどころだったんだよ。物語に出てくる兄妹に兄さんもボクも自己投影してたからさ。それが動かなくなるってのはなんかボクたちも死んじゃうのかなって感じで不安感バリバリだったし」
「それは父さんも母さんも否定してくれたから俺たちも納得できたんだけどさ。それでも嫌なものは嫌だったよな」
「あれ作るときに動力を入れ替え式に作っとけば良かったのにね。まあ、でもそれはそれでそのときは落ちついたんだけどさ。また別居の話が出てきて光紙芝居の話も再燃したし」
「みちるが光紙芝居止まったら兄妹じゃいられなくなっちゃうって真剣に訴えてたよな」
「あのときのボクはそう思ったの」
「それで時間が止まるって迷信のある舞湖に青方偏移の三宝鳥を埋めようって話になったんだ。そうすれば兄妹の絆は永遠に保たれるねって。子供心のファンタジー」
「それを今回掘り出すってことはつまり」せせりは恐る恐る訊く。「百舌鳥君と郭公さんは兄妹ではなく、両親共々別居して正式に恋人同士として付き合い、ゆくゆくはちゃんと戸籍を入れて結婚する道を選ぶことにした。そう理解していいのですか?」
「ああ、そのつもりだ」
 かつるの顔は晴れ晴れしていた。せせりはその表情をみて素直に祝福した。
「おめでとうございます。それでは百舌鳥君とお父さんは枢機卿猊下のところに行かれるのですか?」
「それはうちに帰ってから家族会議の結果によるな」
「うちに来たら毎日コウノトリ呼ぼうね、お兄ちゃん」
 かごめがかつるの腕に抱きついた。すかさずみちるがそれを払う。
「ボクは兄さんを信じてるから」
「もう、みっちゃんは必死だね」かごめはケタケタ笑っている。「ひとつ屋根の下で毎日一緒に暮らしてて、あたしが何の収穫もなしに終わる訳ないじゃない」
「それでもボクは兄さんを信じてる」
 退かないみちるに妙に納得したかごめはせせりを焚きつける。
「せっちゃんのところにもきっと進化研究会から正式に依頼書が来ると思う。そしたら堂々と参戦できるじゃない」
「わたしは色々と考えてからにします。というより感情がついて行けませんよ」
 せせりの態度から彼女の疑問は氷解したとかつるは判断し、長い話の終わりを悟った。
「それじゃあ最後のお宝探しに行こうか」
 彼の誘いに反対するものは誰もいない。ただ、かごめがお兄ちゃん白スズメのことなんだけどと彼女が調査した結果を報告し始めるだけだった。