青方偏移の三宝鳥 -strong bond between brother and sisters- 【第六章】蒼い鳥(6)

「ごめちゃんはどうなの?」
「かごめさんも警戒対象に入っているの」ちとせは熟考してリカバリーを試みる。「と言うのは嘘よ。ほら、先週からエイプリールフールでしょ。今日までの嘘はおっけー」
 照れながら両手で小さく丸を作った鶴ちとせだが、キャラじゃないのでどうにもうこうにも不自然だ。頬に冷や汗が伝わっているのもマイナスポイントだったりする。
 みちるは気にせずガンガン畳みかける。
「せりちゃんはどうなの?」
「正直データ不足なので、かつる君たちに接触させて泳がせてデータ取りしてから判断を下そうとしているところなの」ちとせは一瞬考えたあと、開き直った。「とにかく退きなさい。ねえ、かつる君。もう少し冷静に考えてみて。あなたは学級委員長になって将来は大統領になりたいのよね? それだったらもっと世のなかの秩序を守るようにして」
「秩序を守るからこうしているんですよ」かつるは冷静だ。「兄妹で恋愛してコウノトリを呼ぶのが悪いというから、兄妹をやめようって思ったんです。なんか悪いですか?」
 両肩の白スズメがちゅんちゅんちゅんちゅん大きく鳴き出した。ちとせはそうねそうよねとうんうん頷いている。折しも強風が吹き、彼女の長い髪を吹き上げた。その表情に今までの迷いはない。
「話しあってもわかり合えないのなら、拳で語りあうしかないよね」
「いや、全然話しあってないし。鶴先輩が勝手に自爆してるだけじゃないですか」
「口達者な人たちには最初からこうすべきだったのよ」
 ちとせの周りに上空から飛来してきた鳥たちが展開した。ヒヨドリ二十六羽とムクドリ二十八羽に加えて連射力を誇るヤマゲラ十二羽と防衛用にゴイサギが三羽。それに支援火力要員としてレユニオンドードー二羽と治療用のナイチンゲール一羽、汎用のカワラバト八羽、キジバト八羽の機動鳥隊八八編成を含めると、そこそこの規模の部隊となる。
「ねえ兄さんってばさ。ちとせ先輩思いっきり戦闘モードなんだけど、どうしよう?」
「あー大丈夫だろ。もし催眠かけられてるんだったとしてもさ。自分でやりたくないことはできないからな。鶴先輩が俺たちとケンカしたいと思ってる訳ないだろし――」
 ヒヨドリ八羽が編隊を組んでみちるの上空に襲来し、空気中を浮遊している光角粒を叩き落とした。あられのようにふりそそぐ光角粒の何発かがみちるの頭に当たる。これが実は結構痛い。無防備だったらなおさらである。みちるは泣き声こそ出さないが半泣きだ。
「あれ? 鶴先輩マジなんだ。威嚇だけだと思った」
「兄さんの嘘つきー」
「エイプリールフールらしいからな」
「一日だけだってばさ。嘘ついていいのは。七日前の兄さんの嘘、ボクは決して忘れないからね」みちるは訴える。「で、どうするの? ボクら。応戦しようよ」
「まあ少し待て」
 平和的解決を模索するかつるは、なるべく様子をみたいといったところだ。
「宝物は他のにすればいいわ。運営としてちゃんと便宜を図ってあげるから」
「青方偏移の三宝鳥を三つ目の宝物として諦めなかった場合はどうなるんですか?」
「邪魔し続けるだけよ」細い目が歪んでいる。「私は確かに人の指示で動いているけれども、兄妹は兄妹らしくして欲しいってのは本音よ。私にも弟がいるんだけどね。やっぱり姉弟は姉弟よ。弟と恋人同士になるだなんて考えられない」
 ゴイサギが防御陣を構築している。カワラバトが集めた比較的大きな光角粒を次から次へと、ちとせの前を覆う不可視の光角柱に組上げていく。
「それは鶴先輩の主観であって俺たちの行動を阻止する理由にはならないはずです」
「鳥さんと人々は上手く社会構築してて、今みんながみんな幸福でしょ。何が不満なの?」
 残りのカワラバトは空中で光角粒をより大きくする作業にいそしんでいる。
「いや俺は不満とかはないし。それはかごめが協鳥戦略教団で主張してることです」
「そもそも協鳥戦略教団とかネーミングがふざけてるわ。鳥さんと協力するだとか、どうしてまた対等意識なんか出したりしてるのよ。おこがましい。身の程知らずだわ」
「いや、たぶんそれ皮肉ってますって。立場違えば変わるもんなんだな」
 ヒヨドリとムクドリたちはキジバトが練り込んだ光角粒を弾薬化するのに余念がない。
「ちとせ先輩。質問です。ボクらがしようとしてることは犯罪なんですか?」
「違うわ。犯罪行為なら楽だもの。公的機関がすべて対処、処理してくれるからね。犯罪じゃないからこそ、法的に規制できないからこそ、私がわざわざ出てきてこうやって世の秩序を守るべく奮闘しているの。わかってくれたのならオリエンテーリングに復帰して」
「本音なんですよね。それが鶴先輩の」かつるは哀しそうだ。「武力行為で脅すのが秩序を守ることなんですか?」
「話しあってもだめだったから拳で語り合おうってことなのよ。あなたたちの信じる正義が正しいと思うのならば、かかってらっしゃい」
 闘鳥母艦ちとせの臨戦態勢が整った。前面は不可視の光角柱で完全防護している。この堡塁には十二箇所の銃窓が設置されており、それぞれにヤマゲラ十二羽が配備された。別途攻撃用として大きく左右に張り出した旋回座が添えられており、直径二十センチメートル、全長六メートルほどの砲身兼弾頭となる超圧縮光塊ウルトラライトブロックには、眠たそうでいていざとなると怖いレユニオンドードーがちょんまり座っている。
「ところで兄さん。進展性のない会話してるうちに向こうの陣容ってばさ。完璧になっちゃってない? ボクたち作戦ミスしたのかな」
「いや、それはないな。みちる。相手の態勢が整う前に出鼻をくじいて有利にするとかは弱者の理論だよ。正義の味方は相手に全力を出させてなお、その上を行くんだ」かつるはにかっと笑う。「そのほうがカッコいいし」