青方偏移の三宝鳥 -strong bond between brother and sisters- 【第六章】蒼い鳥(7)

 しかし、かつるの思惑は大きく外れ、ふたりはちとせが敷いた防衛線をまったく突破することができなかった。
 正面からはヤマゲラたちがくちばしでカタカタカタカタ光角粒を予断なく打ち出しているので、おいそれとは近づけない。回り込もうとするとヒヨドリが高高度から猛スピードで降下して、目標直前で抱いていた卵型光角粒ライトエッグタイプボムを離して急上昇する急降下爆撃と、ムクドリが湖面すれすれに飛んできて勢いをつけて滴型光角ライトトーピードゥ粒を湖面に落とし、光角粒同士による斥力を利用して氷上を滑走させる雷撃の二面攻撃を仕掛けられる。まともに当たると洒落にならないので、避けるかはじき返すしかない。ところがヤマゲラ十二門の速射砲を躱しながらの行動となるため、それは恐ろしく難易度が高い。そして忘れた頃に飛んでくるのがレユニオンドードーによる直径二十センチメートルの榴散弾型光塊ライトシュラップネルだ。初速が遅く、単独での攻撃は恐るるに足らず目視で十分回避できるのだが、複合攻撃の最中となると話は別だ。複数の角度からの攻撃を避けているところへ遅い弾が来るのは回避者にしてみれば結構辛い。ましてや着弾後に無数の光角粒をぶちまける代物だ。ここまで揃えられるとそう易々と突破できるものではなくなってくる。
 なのでかつるとみちるは一旦距離を置くことにした。ちとせの目的はふたりに青方偏移の三宝鳥を掘り出させないことであり、意志さえ崩せばいいとの戦略を取っている。そうでなければとうにそれ用の武装を構築していたはずなのだから。となると近づかなければ攻撃はしてこないはず。その読みは正しく、現在ふたりは作戦会議中である。
「にいさん、カッコいい台詞吐いたときにさ。まったく歯が立たなかったりしたらカッコ悪いだけだよね」みちるは自嘲気味だ。「諦めて帰ろうか。別にここで無理して青方偏移の三宝鳥を掘り出す必要ないし」
 みちるの提案はもっともなのだが、かつるはうんそうだねと認めることが嫌だった。
「男が一度こうと決めたことを翻すのがなんか嫌なんだ。実際のところ別にここで退いても確かに俺は困らない。別にオリエンテーリングで高得点を取らなくてもさ。学級委員長になれなくってもさ。青方偏移の三宝鳥を無理に掘り出さなくても問題はない。代替手段を求めることは可能だから、無理にここを突破する必要なんかない。オリエンテーリングは他に高評価を得られる課題を探せばいいし、失敗しても学級委員長には選ばれる可能性はゼロじゃないし、よしんば学級委員長に選ばれなくても俺にはまだ先はある。ここで挫折したから大統領になれないなんてこともない。青方偏移の三宝鳥をここに残したままで俺たちが兄妹をやめられるのかというのは」かつるはみちるを抱きしめた。「俺のほうは問題ない。みちるは?」
 冷たい空気のなか、みちるは瞳を閉じる。兄に頬をよせて兄さんが望むのならと答えた。
「ありがとう。問題ないんだよ。まったく。ここで敗北を認めてしまっても問題ないんだよ。今日遅刻してしまったように失敗してもいくらでもリカバリできるから大丈夫なんだ。ここで負けて引き返してもそれは終わりじゃないし、失敗を糧に更なる成長が期待できるからな。撤収しよう。戦略的撤退は敗北なんかじゃねえ」
「無理しなくていいし」
「みちる」
「我慢しなくていいし」みちるの真摯な眼差しがかつるを見つめている。「兄さんは嫌なんでしょ。だったらさ。も少しだけ頑張ろうよ。倒れたっていいし。怪我したっていいし。やるだけやってさ。だめならそれはそれでしかたないし、ね」
「みちる」
「諦めるなんて兄さんらしくない。そんな兄さんを見るのはボクには辛いから」
 しんと凍る空気と雪のように舞い散る光角柱と足元の冷気より、みちるの眼差しが熱い。
「ありがとう。じゃあ無駄になるかもしれないけど、もうちょっとだけあがいてみようか」
「兄さんの望むままに」
 かつるはみちるの頭をくしゃくしゃっと撫でた。つり目なはずのみちるの目が心なしか垂れてるような気もしないではない。
「ところでみちる。鳥笛吹いてるよな? 下手だからかもだけど、俺のほうはさっぱりだ」
「うん。吹いてるけど一羽も集まらない。範囲内にフリーの鳥さんがいないのかあるいは」
「この辺りの鳥が完全にコントロールされているかだね。なにものかに」
「結局、鳥さんは鳥さん。人間の言うことよりも鳥さんの言うことに従うってことかな?」
「ああ、そうみたいだな。鳥の言うことばかり聞く人間もいるけどね」
「あはは。てか笑えないよ」笑いかけたみちるがこれはさすがに不謹慎とばかり、自らを否定した。「ボクたちが目を覚まさせてあげなきゃいけないね」
「おう、そうだな。頑張ろうぜ」
 かつるは立ちあがると鶴ちとせに宣言した。
「鶴先輩。お待たせしました。作戦タイム終了したのでプレイ再開お願いします」
 かつるの声があまりにも元気だったので、ちとせは戦意を削がれそうになるが持ち直す。
「かつる君はもう少し頭が良い子だと思ったんだけどなあ。でも男の子はそれくらい無鉄砲なほうが素敵なのかもね。ちゃんと相手してあげるから、気の済むまで頑張るといいわ」