青方偏移の三宝鳥 -strong bond between brother and sisters- 【第六章】蒼い鳥(8)

「それじゃあ、よろしくお願いします」
「お願いしまーす」
 かつるとみちるのあいさつを合図にして、ふたたび戦端が開かれた。
 止まっていたヤマゲラ速射砲が雨あられのごとく光角粒を打ち出し始める。
 かつるは指一本につき一条出力した連節光殻を振り回してこれらを迎撃し、みちるは両足の四光珠の機動力で回避運動を行う。光活性線を視認できるからといって何でもできるという訳ではない。鳥でも種や個体によって得手不得手が存在するように、かつるとみちるにもやりやすいこと、できないことが存在する。かつるが得意なのは光角粒を殻状に造成することとそれの操作で、みちるが得意なのは珠状に造成することとそれの操作である。他のことならいざ知らず、戦闘する場合ならばその技術を応用するしかない。鍛錬すれば色々とできることは広がるのだろうが、かつるもみちるも変身ヒーローとかを目指してはいないので、今のところの戦闘スタイルのバリエーションは、これぐらいが関の山だろう。
「それにしても法律上、鳥を狙えないってのは厳しいよな」
 かつるが触手のようにうねうねと連節光殻を動かし、ヤマゲラ速射弾をはじき飛ばしながら、ゆっくりと鶴先輩の陣地に向けて前進する。
「人間を傷つけても犯罪にはならないけど、鳥さんは照準合わせただけでも実刑判決とか出ちゃったりするし、絶対不公平だよね」足指でぎゅっとつかんだ四光珠で湖面をスケーティングしていたみちるが、身体を大きく横に倒してカービングしながら速射砲を躱していく。「兄さんが大統領になった暁にはちゃんと法改正してね」
「おう、任しとけ」
 かつるは進路を左に取った。正面突破はどう考えても無理っぽいので、ここは迂回するしかない。みちるも追随して左に向かう。
 そこを三羽一個小隊で編成されたムクドリ雷撃三個小隊が迎撃する。放たれた九筋の雷道を描く滴型光角粒は、高機動力を活かしたみちるが右足の四光珠で二個を吸収し間に合わなかった三個を弾き、倒れこんでもおかしくない無理な体勢から左足の四光珠で二個吸収、二個を弾いた。アクロバティックな態勢だが、それを成し遂げてしまうほど彼女はバランス感覚と身体の柔らさに秀でている。大股開きのまま、くるくる回って徐々に脚を閉じていき、最後は完全に体勢を立て直す。吸収した分だけ四光珠は大きくなっていた。それが証拠に四原色のスペクトルが氷面をうっすらと照らしている面積が、さっきより若干広がっている。視界が悪く薄暗い環境において少しでも光源が強化されるのは心強い限りだ。この間四光珠に食い込んだ足指はまったく緩まない。みちるの足の握力は相当強力だ。
 ぴーよぴーよと上空から同じく三羽一個小隊で編成されたヒヨドリ爆撃三個小隊がみちるを狙って降下してくる。かつるは爆撃前に迎撃できればどれだけ楽だろうかと考えながら、やはり犯罪者にはなりたくないなとヒヨドリ上昇後に落とされた卵型光角粒を連節光殻でつかんでいく。十本の触手に九つの爆弾なら、それほど難しいことではあるまい。
 かつるは状況に応じて光殻ライトシェルを盾状に形成して使用する場合もある。今回の場合はそれだと防御一辺倒になってしまい、応用も利かないであろうと予測したために避けた訳だったのだが、どうやらそれは正解だったようだ。捉えた卵型光角粒を、かつるは吸収できるものは吸収し、処分に困るものはちとせの前面に構築された防御壁の鳥がいないところにぶん投げた。気休め程度ではあるが何もしないよりはいい。
 第二波、第三波が襲来しても基本的な対処法は変わらないが、どうしたって足止めを食らってしまう。そしてやってくるのだ。砲撃が。まごまごしていると、動作のとろいレユニオンドードーにすら狙われてしまう。
 防御陣の両サイドに設置されたうち、ちとせから見て右側の砲座でじっと戦況を見守っていたレユニオンドードーが、大きなくちばしで円柱型の光塊をぶったたいた。それは反対側の光塊を二十センチメートルほど分離させ、直径二十センチメートルの榴散弾型光塊と化し、かつるとみちるが足止めされている空間に飛んでくる。今まではここで大きく退いていた。避けるのは造作もないが、着撃したあとの散弾の処理が大変だからだ。ビー玉くらいの大きさの光角粒が数えるのも嫌なくらい四散するのを、ひとつひとつ潰していくとか避けるとかの対抗手段をいちいちするのは、非常に骨が折れる。要塞ちとせ攻略の最難関ポイントがこのレユニオンドードーによる榴散弾型光塊であった。
「やられたらやられっぱなしってのもさ。なんか嫌だし、ね」
 みちるが決意した。右足の四光珠一個だけで自立し左足を高々と上げる。ぴんと一直線に伸ばした小麦色の脚が、上下の四原色のプリズム光に照らされて綺麗に輝いている。スカートを穿いていれば大変な光景だが、みちるは現在ショートパンツなので問題ない。実はみちるも本音の部分ではスカートを穿いてみたいのだが、有事の際にこうやって頻繁に足を上げねばならず、諦めざるを得ないのが現状で、それは叶わぬ少女の夢だ。
 飛来してきた榴散弾をみちるは四光珠で受けとめる。衝撃のエネルギーを発光に転化させて逃がしたため、視界二十メートルの薄暗い世界が一瞬煌煌と照らされた。
 かつるとみちるはこの期にまったく認識外だったせせりの無事な姿を見つけて安堵する。 何もできない彼女のためにも早く決着をつけようとみちるは裸足の足裏に全感覚を集中させ、神経を研ぎ澄ます。複雑に再構築された光塊の入り組んだ光活性線を凝視と鋭敏な足裏感覚で捉えて榴散弾の無力化を試みる。が、信管役の光角粒を完全には捉えきれなかった。一部残った回路が爆発を促す。これはもう手に負えない。そう悟ったみちるはできる限りのことをしようとする。
「あー、やっぱり無理。限界だし」
 みちるは強くつかみすぎていた足指を一度に開くことはできず、親指から順に人差し指、中指、薬指と広げていき、最後に残った小指一本で、アンバランスに肥大化してしまった四光珠と榴散弾型光塊のなれの果てを、湖のまるで関係ない方向へ放り投げた。辛うじてなかの散弾を四散させる部分は無力化されていたので派手に飛び散ることはなかったが、その分エネルギーへと転換された珠はクレーターのように湖の氷を溶かした。氷層は何キロメートルにも及ぶため、これで穴が開いて湖水が見えることはないが、湖の景観に多大な影響を与えたことは否めない。みちるはこの作戦は完全に失敗だったと反省した。
「ねえ、かつる君にみちるちゃん。そろそろ諦めたらどうかな? もうすぐオリエンテーリングの終了時間よ。こんなところで無駄な時間を過ごしていたら最後の三つ目の宝物を探す時間がなくなっちゃうでしょう? ここは適当に切り上げなさい。私も定時に終わってお家に帰りたいの。録画した連続ドラマの『ウミウちゃん』を早く見たいのよね。だからもう終わりにしようよ。楽になろう」
 要塞内でちとせがにこやかに微笑んでいる。それに反して肩の上の白スズメ、放と泛の眼差しは真剣そのもので、気むずかしそうな顔を崩さない。
「みちる、大丈夫か?」
「だいじょぶじょぶじょぶ、大丈夫だし、ね。ぶーぶーじょーいだ」
 みちるがいつものように調子っぱずれではあるがリズミカルにさえずる。手持ちぶさたな左の素足は、現在氷面上を光角粒を求めてサーチ中だ。
「みちるはさ。文句ぶーぶーたれながら攘夷するんだ?」かつるはいつものように問いかける。「夷って何?」
「爬虫類人とか悪い鳥さんとかかな?」
「犯罪者になっちゃうぜ?」
「法的な範囲内で、だよ」みちるがけだるそうに言う。「てかさ。もう法律変えちゃおうよ。兄さんが大統領になってさ。ぱあーっと世の中を変えちゃおうってばさ」
「俺はまだ中一だから大統領になるまで結構掛かるぜ。その間我慢するのか?」
「それも嫌だけどさ。でもでもね。どうせなら難題を解決するのは兄さんってのがいいし」
「おう、そのほうがカッコいいからな」
「あーっ。それ負けフラグだってばさ。さっきのこともう忘れたの? 兄さんのワニ頭っ」
 ちりんと鈴が鳴った。
「何こんなときに夫婦漫才してるのよ。お兄ちゃんもみっちゃんもワニ頭じゃなくってキリギリス頭じゃない」
 背後を振り返ると、何色かと訊かれればマルーンあたりが妥当と答えるしかない色のセーラー服姿のかごめがいた。その足元にはクワックワッと無愛想に鳴く雁兵の姿もある。